『ダウザー ――カルダーノの蛇――』を 読みました。
文章はさすがだと思いましたし、中国拳法に関する部分も良く調べているんだなと感心しました。密室トリックは偶然を利用しているため、人によって評価が分かれるかもしれませんが、最近の本格ミステリーの傾向を考えれば、十分鑑賞に堪えられるレベルに達していると感じました。また、動機に関わる親子関係、兄妹関係も興味深く描かれています。真相解明がダウジングのような一種の超能力に依存する作品は、新人賞では不利に扱われるおそれがあると思いますが、本作品ではそれほど不満は感じませんでした。文章、トリック、動機とミステリーの中核部分がしっかりしているので、この作品が新本格推理で一次通過レベルでとどまるのはおかしいと思いながら読み進めたのですが、終盤でいろいろがっくりしてしまいました。もったいないなあと思います。
以下、ネタバレも含みますのでご注意ください。
まず不満を覚えたのは設定です。真犯人を知っている皐月が不思議な点があるからといってわざわざ探偵を雇うかという疑問です。ちょっと考えれば、泰造が手を回したと気付きそうですし、10万円の調査料というのも無理があります。
また、
>山野は否認した。小川に会いに行ったら、もう殺(バラ)されてたってよ。
密室じゃなかったの? どうやって部屋に入ったのか?
>彼女の車にベンツを衝突させろと彼らに命じたのも、あなただ。
>暴力団員に嘘の事故時刻を証言させて、山野さんが早めに無罪になるように計画を修正した
意味が良くわかりませんでした。
>彼女の世話は、今後は我々新華林が引き受けましょう。
簡単なことではないはずです。都合が良すぎると感じます。
他にも違和感を覚える記述がいくつかありましたが、新本格ミステリーには漫画的な作品も少なくないので、首を傾げつつも疑問点を具体的に挙げるのは遠慮しておきます。以下では客観的に明らかな問題点、つまり法律上の誤りだけ指摘しておきます。
>刑法第九七四条の虚偽届出罪
これはいくらなんでも困ります。「公正証書原本不実記載罪」で検索してみてください。ちなみに、本作のケースでは公訴時効が成立していますよ。
でたらめとわかって書いているんでしょうが、それだったら何も書かない方がずっとましです。
>傷害未遂罪にすら相当しません。
ウィキペディアでもいいから調べる癖をつけてください。傷害罪に未遂処罰規定はありません。暴行罪になります。ここも無理に罪名をあげる必要がないと思います。
>『一事不再理』の原則もある
一事不再理(いちじふさいり)とは、ある事件について、確定した判決がある場合には、その事件について再度、実体審理をすることは許さないとする刑事訴訟法上の原則。この原則に反して公訴の提起がなされた場合には、免訴の判決が言い渡される。二重危険禁止とも呼ばれる。(ウィキペディアから引用)
山野皐月や小川里緒が起訴されて無罪になったという記述はありませんよ。
>証拠隠滅罪
これは結論として、誤りとはいえませんが、下記の点を確認しておいてほしいところです。
http://park.geocities.jp/funotch//keiho/kakuron/kokkanosayo1/hanninzoutoku_shoukoimmetsu/shinzokutokurei.html
法学部出身でなくとも、公務員試験や資格試験を受けるため、民法や刑法を勉強したことのある人はたくさんいるはずです。小説であっても、社会人としての最低限の常識を踏まえることは当然要求されるはずです。罪名を挙げるときはネットで確認する程度のことはすべきではないでしょうか。