後書き
執筆のきっかけは2ちゃんねる文学板だった。
肉体労働が辛くなってPCスキルを身に付けようと28歳の時に引きこもり生活をしていた頃のことだ。
常駐コテハンとして生意気なレスを書き散らしていると煽られることも少なくなかった。
売り言葉に買い言葉で「どちらかが新人賞を受賞したら、負けたほうは切腹だ」と、僕は勝負を挑んだ。
「切腹バトル」は2ちゃんねるニュース速報でも話題となり、僕のサイトは1日数千アクセスを超えた。
そして書かれたのが今作である。
2002年6月30日の応募締切までの2週間位しかなかったが、しょせんは自分で撒いた種。
かかりきりのつもりが最後の一週間は食費にも事欠いて日払いの肉体労働バイトをしながらだった。
マンションのチラシ配りが3日ほどあって土砂降りの雨の中、見知らぬ住宅街を自転車で走り回っていた記憶がある。
実はこの作品、書き終える3日前まではSFになる予定だった。無理を感じて書き直し始めたものの、如何せん時間が足りない。
締切日の夜は、友人に紹介されていた「出会い系サイトのサクラ」のバイト初日の予定。
勤務地は新宿だったので、窓口受付が24時間の新宿郵便局から郵送することにした。
勤務開始は23時からのはずだったが、プリンターの調子が悪くて1時間遅らせてもらった。
どうにかプリントし終えたもののノンブルが抜けていたので、小田急線の車内で手書きで書き添えた。
間抜けなことに1次も通過せず、勝負相手の行方も知れない。
結果が出た後「またり文庫」に投稿したところ、賛否両論の感想が寄せられた。
『アルジャーノンに花束を』に展開が似ていると言う読者もいた。
意識したつもりはなかったが僕の好きな本だし、確かに似ているところがある。
実際に意識したのは特定の作品ではなく、アメリカ文学史に連なろうという発想だった。
参考にしたのはポストモダン文学の翻訳家として高名な柴田元幸のエッセイ。
『アルジャーノンに花束を』もアメリカ文学。500枚はある作品だが、初出時は100枚程度だった。
SF作品ということもあって文学史的な位置づけは考えていなかったが、気になって調べてみた。
本国での発表当時『ライ麦畑でつかまえて』との類似を指摘されていたらしい。
なおかつ『ライ麦』も『ハックル・ベリーフィンの冒険』に似ていると言われていたことが分かった。
結局のところある種のアメリカ文学史の流れを汲むことができていたわけだ。
それはまた世界文学に脈々と受け継がれていた「聖なる白痴」の系譜でもある。
文体は阿部公房の『壁~S・カルマ氏の犯罪』を意識したつもりだが、浮遊感が足りなかったかも。
もっと枚数を水増しして不思議な展開を織り交ぜないと気付かれないな。
後半で逮捕された後に裁判のシーンを入れたりすればよかった。
『壁~S・カルマ氏の犯罪』も裁判の描写にかなりのページ数が割かれているからだ。
当然のことながらそれは『カラマーゾフの兄弟』へのオマージュであり、
ドストエフスキーつながりで『白痴』を連想させることも可能だ。
アメリカ文学といえば村上春樹や高橋源一郎といった戦後世代の旗手への影響も顕著だし、
僕自身がジャズやアメカジを好むこともあって考え至った方法論。
『風の歌を聴け』に読後感が似ているという意見や、舞城王太郎を思わせるという人もいた。
舞城のことはそれがきっかけで知った。メフィストに興味を持ったのも、これが大きい。
京極夏彦は読んでいたけれど、そこから派生したメフィスト賞とやらには実は興味がなかった。
村上春樹、高橋源一郎、京極夏彦、舞城王太郎、佐藤友哉には漱石→芥川→太宰の系譜を感じる。
面白うてやがて悲しき鵜飼いの境地、といったところだろうか。
ともあれ思い出深い作品である。
※2008/05/27追記
主人公がストリートチルドレンというのもアメリカを意識したもの。リヴァー・フェニックスとか。登場人物の中で主人公だけ名前が出てこないのは「無名」のメタファー。ってそのまんまだけど。※2009/07/19追記:ちなみに主人公だけでなく隣人と親方の名前も出てこない。名前が出てくるミクとジョンは死に、生まれた娘の名前は知らされない。物語が終了した時点で名前の分かる人物は誰一人いなくなっている。
風貌が平井堅似、というのは人種不明かつアンドロイド的に整った造詣のイメージを持たせたかったゆえ。「聖なる白痴の系譜」は『アルジャーノン』以外にも『われはロボット』や『A.I.』といったロボット物SFに受け継がれているからだ。今なら平井堅より速水もこみちのイメージだろうか。『絶対彼氏』でのロボット役は適役だ。
松田優作が監督兼主演を務めた『ア・ホーマンス』の不気味なテイストの影響もあったかもしれず。新宿を舞台に記憶喪失の男が活躍するバイオレンス・アクション映画。ネタバレだが、主人公の正体はロボットだった。ちなみに原作は作・狩撫麻礼 画・たなか亜希夫の同名コミックとのこと。
「丁寧な言葉遣いの謎の青年が女子高生とセックスして淫行で逮捕され女子高生が死ぬ話」これはタケモトノバラのデビュー作。ここだけ聞けば、うんざりだ。と瓜二つだと最近知った。執筆時期は2年後だから、パクリと言われても反論しようがない。似ても似つかぬことも確かだが。
肉体労働が辛くなってPCスキルを身に付けようと28歳の時に引きこもり生活をしていた頃のことだ。
常駐コテハンとして生意気なレスを書き散らしていると煽られることも少なくなかった。
売り言葉に買い言葉で「どちらかが新人賞を受賞したら、負けたほうは切腹だ」と、僕は勝負を挑んだ。
「切腹バトル」は2ちゃんねるニュース速報でも話題となり、僕のサイトは1日数千アクセスを超えた。
そして書かれたのが今作である。
2002年6月30日の応募締切までの2週間位しかなかったが、しょせんは自分で撒いた種。
かかりきりのつもりが最後の一週間は食費にも事欠いて日払いの肉体労働バイトをしながらだった。
マンションのチラシ配りが3日ほどあって土砂降りの雨の中、見知らぬ住宅街を自転車で走り回っていた記憶がある。
実はこの作品、書き終える3日前まではSFになる予定だった。無理を感じて書き直し始めたものの、如何せん時間が足りない。
締切日の夜は、友人に紹介されていた「出会い系サイトのサクラ」のバイト初日の予定。
勤務地は新宿だったので、窓口受付が24時間の新宿郵便局から郵送することにした。
勤務開始は23時からのはずだったが、プリンターの調子が悪くて1時間遅らせてもらった。
どうにかプリントし終えたもののノンブルが抜けていたので、小田急線の車内で手書きで書き添えた。
間抜けなことに1次も通過せず、勝負相手の行方も知れない。
結果が出た後「またり文庫」に投稿したところ、賛否両論の感想が寄せられた。
『アルジャーノンに花束を』に展開が似ていると言う読者もいた。
意識したつもりはなかったが僕の好きな本だし、確かに似ているところがある。
実際に意識したのは特定の作品ではなく、アメリカ文学史に連なろうという発想だった。
参考にしたのはポストモダン文学の翻訳家として高名な柴田元幸のエッセイ。
『アルジャーノンに花束を』もアメリカ文学。500枚はある作品だが、初出時は100枚程度だった。
SF作品ということもあって文学史的な位置づけは考えていなかったが、気になって調べてみた。
本国での発表当時『ライ麦畑でつかまえて』との類似を指摘されていたらしい。
なおかつ『ライ麦』も『ハックル・ベリーフィンの冒険』に似ていると言われていたことが分かった。
結局のところある種のアメリカ文学史の流れを汲むことができていたわけだ。
それはまた世界文学に脈々と受け継がれていた「聖なる白痴」の系譜でもある。
文体は阿部公房の『壁~S・カルマ氏の犯罪』を意識したつもりだが、浮遊感が足りなかったかも。
もっと枚数を水増しして不思議な展開を織り交ぜないと気付かれないな。
後半で逮捕された後に裁判のシーンを入れたりすればよかった。
『壁~S・カルマ氏の犯罪』も裁判の描写にかなりのページ数が割かれているからだ。
当然のことながらそれは『カラマーゾフの兄弟』へのオマージュであり、
ドストエフスキーつながりで『白痴』を連想させることも可能だ。
アメリカ文学といえば村上春樹や高橋源一郎といった戦後世代の旗手への影響も顕著だし、
僕自身がジャズやアメカジを好むこともあって考え至った方法論。
『風の歌を聴け』に読後感が似ているという意見や、舞城王太郎を思わせるという人もいた。
舞城のことはそれがきっかけで知った。メフィストに興味を持ったのも、これが大きい。
京極夏彦は読んでいたけれど、そこから派生したメフィスト賞とやらには実は興味がなかった。
村上春樹、高橋源一郎、京極夏彦、舞城王太郎、佐藤友哉には漱石→芥川→太宰の系譜を感じる。
面白うてやがて悲しき鵜飼いの境地、といったところだろうか。
ともあれ思い出深い作品である。
※2008/05/27追記
主人公がストリートチルドレンというのもアメリカを意識したもの。リヴァー・フェニックスとか。登場人物の中で主人公だけ名前が出てこないのは「無名」のメタファー。ってそのまんまだけど。※2009/07/19追記:ちなみに主人公だけでなく隣人と親方の名前も出てこない。名前が出てくるミクとジョンは死に、生まれた娘の名前は知らされない。物語が終了した時点で名前の分かる人物は誰一人いなくなっている。
風貌が平井堅似、というのは人種不明かつアンドロイド的に整った造詣のイメージを持たせたかったゆえ。「聖なる白痴の系譜」は『アルジャーノン』以外にも『われはロボット』や『A.I.』といったロボット物SFに受け継がれているからだ。今なら平井堅より速水もこみちのイメージだろうか。『絶対彼氏』でのロボット役は適役だ。
松田優作が監督兼主演を務めた『ア・ホーマンス』の不気味なテイストの影響もあったかもしれず。新宿を舞台に記憶喪失の男が活躍するバイオレンス・アクション映画。ネタバレだが、主人公の正体はロボットだった。ちなみに原作は作・狩撫麻礼 画・たなか亜希夫の同名コミックとのこと。
「丁寧な言葉遣いの謎の青年が女子高生とセックスして淫行で逮捕され女子高生が死ぬ話」これはタケモトノバラのデビュー作。ここだけ聞けば、うんざりだ。と瓜二つだと最近知った。執筆時期は2年後だから、パクリと言われても反論しようがない。似ても似つかぬことも確かだが。

